〜移住後の生活〜狩猟は自然への入口

“自然豊かな場所で暮らしたい、けれど生活をどうしていこうか…” 


移住をお考えの方は年々増えているようですが、実際には明確な目的やキッカケがない限り、中々行動に踏み出せない部分もあると思います。移住相談会などでは各自治体が魅力をアピールしますが、本当に全国各地それぞれの良さがありますし、漠然と迷いだすとキリがない気もしますよね。

今回ご紹介する西田さんは、なんと移住先に一歩も足を踏み入れず、ポーンと高原町へ移住してきたという稀有なお方。6年前に高原町出身のご主人と一緒に、関東から移住してきました。
元々自然に対する想いがあったようですが、ふいにご主人から「地元に空き家がある」との話を受け、ピンときて移住を即決。それから2週間ですべてを片付け(!)高原町での生活をスタートさせます。

 

f:id:freelifetakaharu:20210727140308j:plain

 

最初は草ぼうぼうだったという家を住みやすく改修することから始まり、期待に胸膨らませていましたが…「はじめの3年間は理想と現実のギャップが凄くて泣きながら暮らした」といいます。そんなネガティブな時期を変えるキッカケとなったのはニワトリ、そして狩猟…!?
移住について、現在の暮らしのことなどを中心にお話を伺いました。(実は彼女とは保育園のママ友。文章に親和的な印象を持たれるかもしれませんが、彼女の魅力が伝われば幸いです。)


西田さん:小さなころから「自然の中で、もっと自由に遊べたらいいのにな」という想いや世の中に対するちょっとした違和感みたいなものがあったの。
当時よく遊んだプレーパークでは木登りOK、穴ほりOKって感じだったんだけど、その場から外へ出た瞬間にそれらが禁止される、そういうことを子供ながらに「何でだろう?」って。“登っちゃいけません”の場所が、私は登りたいところだったから。

関東で暮らしていたときは、とにかく自分の世界を狭く感じていて、もうちょっと自然の多い場所、東京みたいに人が溢れていない場所で、自分らしいベストな生き方ができるんじゃないかなとしみじみ感じていた。
そんなとき、夫(当時はまだ未婚)の地元である高原に空家があるよっていう話にピンときて。「どんなとこなの?」「うーん…、今草ぼうぼうだと思うよ」「めちゃくちゃ良いじゃん!」…それから2週間後、高原に来た(笑)
けど本当に住める状態じゃない家で、それを直しながら暮らし始めたのが、ほんとに高原生活のスタートだった。

 

そんな風に前進し始めた西田さんですが、そこから4年目位までは悶々と揺れる日々が続きます。東京に帰ることはほとんど無かったそうですが、「自分の考えがいかに浅はかだったかがすごく分かった時期だった。明確なイメージがなくて、本能的に動いちゃったからね。」と振り返ります。

 

西田さん:そのうち郵便局の何かで、花の種をもらったの。興味なかったんだけど、とりあえず撒いてみよ~ってパラパラしたら、時期がよかったのか、ちゃんと芽が出たのよね。
「芽ぇ、めっちゃ出た!!」と思って、座ってぽけーと見ていたら、本当に軽―く、ふわぁっと地面から出てきていて。“あぁ、でも根を張るって案外難しいことではないのかな”って、ふと思えたのよね。

今まで、ああだこうだと不満ばかり抱えていたけれど、このままだと私は一生この土地を好きになれないし、自分からは何も生み出せないだろう。じゃあ私のやりたいことは?何のためにここに来たんだろう?って考えて。そうしたら…やっぱり子供がもうちょっと、のびのびと過ごせるのがベストなんじゃないかと思い始めた。

f:id:freelifetakaharu:20210727141201j:plain

自宅周辺は自由な遊び場!最近はヤギやウサギも仲間入り。

それから、めんどり家(※鶏料理・卵専門のお店)のおじちゃんに、「お前はたぶん都会に慣れすぎてるから、固定観念が外れない限り無理だと思う。とりあえず鶏を飼って、毎日観察してみなさい」って言われたの。なんでもいいからノートに書いとくといいって。それからとりあえずノートに書くようになった。しょうもないこと…「今日は鶏が○○してました」をただ書いてたんだけどね(笑)

 

f:id:freelifetakaharu:20210727141401j:plain

敷地内で平飼いされている鶏達。土を踏みしめ虫をついばみ、見るからに健康的!

そのうち鶏が増えてきて、「増えたオスは食べればいいんだよ。循環させればいいんじゃないの?」っておじちゃんに言われて、鶏をさばくようになった。
そうしたら今度はスーパーの価値について改めて考えるようになった。ハウス栽培の野菜にしても「今の時期にこの野菜があるのは、どういうこと?」とかね。それまではお金で買うのが当たり前の生活だったけど、それらのものって自然のものですら無いんだ…ってことを、改めて思い知らされたりして。

テレビとか、外からの情報が強いと“実際に自分の目で見てやる”っていうことが凄く少なくなるなって思ったのよ。それまで周りからの情報があまりに多すぎて、気づけなかったんだよね。お金を出して物を買うこと=生きる術、だったからね。

 

f:id:freelifetakaharu:20210727141605j:plain

 

自分の生き方を模索するように、日々試行錯誤しながら、着々と行動してきた西田さん。“鶏の生きる姿を観察する”そこから自然界へ心が開かれていったように感じます。そして最近は狩猟免許を取り、師匠と山へ入り、鹿や猪をさばくまでになった彼女。自分の手で動物を殺め、その命をいただく。自分ではまだ想像することでいっぱいになるような領域ですが、狩猟するきっかけ・動機を聞いてみました。


西田さん:きっかけは、役場の階段に貼ってあった狩猟免許のポスターかな。私自身、自然にかかわる物事には大半興味があって、それらを一通りみておきたい気持ちがあった。それに狩猟を始めたら、生活が循環していくようなイメージが湧いたのよね。
鶏のさばき方を教えてもらって、卵も自分で採れるようになって。スーパーに並んでいる肉がどういう状態で育てられて、何を食べているのか。“国産だから良い”とかの、商品ラベルの情報だけで選ぶことに対して徐々に違和感が出てきた。自分で育てて食べる…という一通りのことをしてみたら、不確かなものを買って食べるということがすんなり出来なくなってきてしまったのよね。

f:id:freelifetakaharu:20210727141745j:plain

箱罠を仕掛ける。周辺には猪が鼻で草をしならせた円状の跡があった。

f:id:freelifetakaharu:20210727141853j:plain

国有林へ入ると、時々獣道なるものが見つかる。動物の動きを読みながら罠を仕掛ける。

f:id:freelifetakaharu:20210727142124j:plain

見定めた場所に穴を掘り、罠を仕掛け、辺りの土をかぶせて完成。敏感な動物達はわずかな匂いも嗅ぎ分けるため慎重に作業を行う。

西田さん:たぶん自分にとって、狩猟することの主な目的はお肉ではなくて、(自然への)入口なんだよね。今まで外からみてきた自然だけど、狩猟を通して嫌でも山に入るでしょ。
虫とかヘビは凄く嫌いだし(笑)ドキドキしながら山中へ入ってるんだけど、それで手つかずの自然から得られるものがある。今まで簡単に入れなかった山中に、ちゃんと許可を取って入らせてもらえるし…いろんな意味で“入口”かなと感じてる。
今は植物に対しても興味が湧いてきていて、狩猟は生活の一部としてとらえてる。自然からもらえるものは、もらって暮らしていきたい。そうしていきながら、将来は自分の手元にあるものだけで生きていくのが目標。最初高原に来た時はなかった目標が、今はあるのがうれしい。ここからだと思ってる。

 

f:id:freelifetakaharu:20210727142614j:plain

西田さん、ありがとうございました。

 

エネルギッシュでさばさばとした性格の彼女。色んなことに興味を持って、無理なく向き合う姿にこちらまで元気をもらいます。何をするでもなく家の外で焚火したり、自然の中で遊びまわる子ども達を眺めながら「こういう時間が本当にしあわせだよね~」としみじみ話していると、あっという間に日が暮れていく。こういう感覚はお金に代えがたい、贅沢な時間だと感じます。そして移住後、少しずつ自然と調和した生活を送れていることに、じわじわと感謝の気持ちが湧いてくるのです。

“直感で行動して、どうするかはその後の風向き次第。なるようになる!” 
“問題が起きたとき、そこで悩んで学ぶことがあれば、それはそれでいいんじゃない?”
彼女の姿からはそんな心意気を感じます。もちろん、行動を起こす前にいろいろ悩んで決めるのも安心ですが、思い切って動いてみるのも刺激的で楽しいかもしれない…!物事が連鎖していき、どんどん目の前の世界が広がっていく彼女の様子を見てそう感じるのでした。