地域の先輩方を訪ねて〜(後河内地区/中嶋 一郎さん・狭野地区/矢野聖明さん)

後川内地区の道路沿いで、愛らしくピンク色の花を咲かせる芙蓉(フヨウ)の花。

寒くなり始めた時期、すっきりとした晴天の青に映える鮮やかな花を見ていると、何だか元気をもらいますね。

10年前に縁あって手に入れた芙蓉を、挿し木して増やし、大きさを調整・管理しながら育ててきたという中嶋一郎さん。実はある方から「地域の方々にぜひ知ってほしい人がいる」との紹介を受けて取材へ伺ったのですが、ご本人は「大したことねぇよ‥」と謙遜しながらも照れ臭そうに応じてくれました。周辺の草刈り等も自ら手入れし「前はよく空き缶を投げられたりしていたけど、花が咲き始めると、それも無くなった」と話します。

日頃からボランティア精神で、草刈りや田んぼの管理、剪定、畑仕事等‥何でもきちんと丁寧に仕事をされるから、みんなから引っ張りだこの地域の頼れる存在であるイチローさん。

「やっぱりきれいにせんとな!」そうサッパリと言い放つ様子から、普段からテキパキと何でもこなす方なんだろうなぁ‥と大雑把でのんびりした私には尊敬の眼差ししかありません。

好きなことを伺うと「毎日の晩酌が楽しみ。毎朝4時ごろ起きて、その日の弁当と夜ご飯を作って出掛ける。一日中動きっぱなしだから、朝にできることは済ませて、帰ったらコタツに入ってゆっくりするのが楽しみよ」とまたまた清々しいお答え!

その他にも山菜採りや、河川へ行き魚をモリで捕ったり、グランドゴルフを楽しんだり‥と日々やることは尽きません。80歳を目前に活力が衰えることのない、そんなイチローさんのやる気の源は何なのでしょうね?と少し勢い余って聞いてしまうと「‥分からん」との一言でした(笑)

自分の住まいの敷地の管理もままならず、朝4時に起きるなんてできない私からすれば、イチローさんが自然にできることが、とても尊いものに感じます。いつも何気なく人が行き来する道を、ごく自然な気持ちで自ら働き手入れできるのは、心がすっきりと整っている証拠。そして自分の生まれ育った地域を愛する気持ちから‥でしょうね。高原町内には各所に季節ごとに美しく花を咲かせる道がありますが、それはその土地が愛されているということ。

お手入れした人の存在や気持ちを想うと、より一層鮮やかに映り心温まるのでした。

 

お次は2年前から高原町で新生活を始めた矢野聖明さん。

長年福岡で運送会社を経営していましたが、そろそろ引退してゆっくり過ごそう‥と地元の高原町へ帰ってきました。「食べ物が美味しい、人が良い。身体も健康になった!ここは最高の場所や」と目を輝かせます。

福岡にいた頃は毎月病院へ通い薬を飲んでいた矢野さんですが、帰ってきてからは体重が13kg減り、今では担当医からも“薬いらずの身体になったね”とお墨付きをもらうほどになりました。

「福岡にいた時はカロリーの高い御馳走ばかり食べていたからね。帰ってきて健康になったし、毎日楽しく過ごしている。皆で集まってあくまきやこんにゃく作り、年末に向けて蕎麦汁作りや餅つきも控えているから毎日忙しいのよ」と笑います。

 

3年前に帰ってきた当初はのんびり過ごそうと思っていたのが、今では福岡と高原の二拠点に運送会社の事務所を抱え、新たにカラオケ店を開業し、自らの経験を生かしてカレーやうどんも販売するなど中々お忙しいご様子です。

 

矢野さん「地元へ帰ってきたと同時にコロナ禍になり旅行もできず、さてどうして過ごそうか‥と思っていたら自然と人が来るようになって。「あぁ、これをやるために自分は帰ってきたんだな」とピンときたのよ。生きていく上で一番大事なのは人。その次に物・お金やね。物やお金は自分次第・努力でなんとかなるけど、人はそれぞれが違う感情を持ってるから、気持ちや心の距離感が大切になってくるよね。人とのつながりは本当に何にも変えがたい。」

その言葉からは、人とのつながりや関係性が薄くなりがちな日々の中だからこそ、笑顔でいること、楽しいひとときを過ごすことを大切にして、生きる力にしてほしいという矢野さんの気持ちが伝わってきます。

お手製のうどん。喫茶店オーナーの経験もある矢野さんのカレーは絶品だとか!

矢野さん「自分が忙しく働いている時期に両親を亡くなってしまったから、何もしてやれなかった。だからこそ地域の人たちに恩返ししていきたいと思っている。何よりも毎日笑顔で楽しく暮らしてもらいたい。誰しもいろんなものを抱えて生きているからね。ここに来る人の顔を見ていると最初は暗い感じだったのが、ぱぁっと明るい表情に変わってくる。ここに来ると楽しいって言ってくれるのが何よりうれしい。そして、その気持ちでまた家に帰ってもらいたいのよね。」

人とのつながりは目に見えないもの‥儚いようで、時にとても心強く、人生を豊かなものにしてくれます。人から信頼を得ることの大切さを、自らの人生や仕事から学んだという矢野さんが作った憩いの場には「元気で、楽しく、良き日でありますように‥」といった言葉が、所々に優しくしたためられていました。